乳腺内分泌外科

乳腺内分泌外科のご案内

特色 ・ 対象疾患 ・ 診療実績

乳腺外科

 乳腺外科で取り扱うのは、大部分が乳癌の治療です。近年、乳癌患者は著しく増加しており、女性の9人に1人が乳癌になると言われています。乳癌の治療法は、各種画像診断の発達、新薬の開発、ならびに乳癌の分子生物学的な特性の解明などにより、以前と比べて大きく変化してきています。今や遠隔転移のない手術可能な乳癌に対して、診断が付き次第手術を行うということはありません。乳癌はその生物学的な特性によりいくつかのサブタイプ(luminal、luminal-HER2、HER2、triple negative)に分類され、そのサブタイプに応じた治療戦略を立てることが重要です。サブタイプ分類は、通常腫瘍の針生検から得られた検体を用いて行います。術前に薬物療法を行う方が患者さんにとってメリットが大きいサブタイプ(多くはluminal以外)では、まず薬物療法(細胞傷害性抗癌薬、細胞障害性抗癌薬+抗HER2薬、または細胞障害性抗癌薬+免疫チェックポイント阻害薬)を行います。また、ホルモン受容体陽性で腋窩リンパ節転移のないluminalタイプの乳癌では、まず手術を行い、術後補助療法として内分泌療法を行うのが一般的です。すなわち、乳癌周術期治療はサブタイプに基づいた個別化治療といえます。
手術はMRI検査で腫瘍の乳房内での広がりを検索し、部分切除、全摘術に加え、再建手術も考慮します。当院では形成外科の協力により、自家組織(有茎腹直筋皮弁、有茎広背筋皮弁など)もしくはブレストインプラントを使用した再建手術を行っています。
腋窩リンパ節郭清の省略を目的としたセンチネルリンパ節生検は、昨年は初発乳癌102例中72例(70.6%)に施行しました。センチネルリンパ節への転移の有無は、2015年より従来の術中迅速病理診断から転移したリンパ節に発現するサイトケラチン19mRNAを検出するOSNA法に変更しました。直近5年間の当科における乳癌手術の内訳を表1に示します。
乳癌患者の約5%はBRCA遺伝子の生殖細胞系列の変異に起因する遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)です。2018年に転移・再発HBOCの治療薬であるPARP阻害薬(オパラリブ)のコンパニオン診断として、HBOCに対する遺伝学的検査(BRACAnalysis)が保険適用となり、2020年4月からある一定の要件を満たせば、HBOC診断のための検査としても保険適用になりました。また、HBOC乳癌患者の対側リスク低減乳房切除術、リスク低減卵管卵巣摘出術も保険適用になりました(施設基準があり、当院ではできません)。オラパリブが2022年8月より、再発高リスクのHBOC術後補助療法として承認されたこともあり、治療前にHBOCの遺伝学的検査を行うことが多くなってきました。
転移・再発乳癌の薬物療法も基本的にはサブタイプに基づいた治療となるため、可能であれば再発巣から生検を行います。治癒は困難な病態であり、治療の目的は延命、症状緩和、QOLの維持になります。なお、手術、薬物療法、放射線療法などの治療方針は、原則として日本乳癌学会の「乳癌診療ガイドライン」に従って決めています。

内分泌外科

内分泌外科で取り扱うのは甲状腺・副甲状腺疾患です。甲状腺疾患の手術対象としては、主に甲状腺癌ですが(表2)、良性結節性病変でも腫瘍が大きく頸部の圧迫症状がみられる症例や充実性腫瘤で癌との鑑別が困難な症例(濾胞性腫瘍)は手術適応としています。
甲状腺癌も乳頭癌、濾胞癌、髄様癌、未分化癌があり、それぞれの種類により特徴が異なります。基本的には手術治療ですが、進行・再発に対しては甲状腺全摘後のハイリスク症例、リンパ節転移や遠隔転移症例に放射性ヨード内用療法を行うことがあります。甲状腺癌は、治療の標的となる遺伝子異常が比較的に高いがん種であり、その頻度は60%と報告されています。
最も頻度が高いBRAFの遺伝子変異は、本邦では約70%と高頻度です。甲状腺未分化がんも約40%に認められます。近年では、こうした、遺伝子変異に基づく薬物療法が進んでいます。根治切除不能または再発・転移が生じ放射性ヨード内用療法の適応がないあるいは抵抗性になった場合は、マルチキナーゼ阻害薬(レンバチニブ、ソラフェニブ)、BRAF阻害薬(ダブラフェニブ、エンコラフェニブ)とMEK阻害薬(トラメニチブ、ビメチニブ)併用療法、RET阻害薬(セルペルカチニブ)、TRK阻害薬(ラロトレクチニブ、エヌトレクチニブ)が治療選択肢になります。
バセドウ病の治療に関しては、原則的には薬物療法が中心ですが、抗甲状腺薬が副作用などで服用困難な症例、抗甲状腺薬に抵抗性があり再燃を繰り返す症例、眼症状が強くまた甲状腺腫が大きい症例および癌合併例などは手術適応としております。
その他、副甲状腺疾患(原発性および続発性副甲状腺機能亢進症)、副腎疾患(副腎皮質腺腫など)の手術も行っています。保険適応になった内視鏡による甲状腺(良性疾患)・副甲状腺手術も導入しました。

表1 最近5年間の初発乳癌手術症例数
 
乳癌総手術数
温存手術例(%)
センチネルリンパ節生検施行例(%)
2019 92 43(46.7) 55(59.8)
2020 93 34(36.6) 57(61.2)
2021 109 55(50.5) 69(63.3)
2022 91 44(48.4) 60(65.9)
2023 102 58(56.9) 72(70.6)

 

表2 最近5年間の甲状腺癌手術症例数
 
甲状腺癌手術症例数
2019 18
2020 15
2021 9
2022 13
2023 14

担当医師のご紹介

  • 新宮 聖士 シングウ キヨシ
    役職
    院長

    卒業年
    昭和62年
    専門領域
    内分泌外科(乳腺、甲状腺、副甲状腺疾患)
    専門医等
    日本外科学会指導医・専門医
    日本乳癌学会乳腺指導医・専門医
    日本内分泌外科学会内分泌・甲状腺外科指導医・専門医
    日本臨床腫瘍学会指導医・がん薬物療法専門医
    がん治療認定医機構がん治療認定医・暫定教育医
    日本甲状腺学会専門医
    日本消化器外科認定医
    所属学会
    日本外科学会
    日本乳癌学会
    日本内分泌外科学会(評議員)
    日本臨床腫瘍学会
    日本癌治療学会
    日本臨床外科学会(評議員)
    日本緩和医療学会
    万国外科学会(active member)
    日本内分泌学会(評議員)
    日本消化器外科学会 他
    一言
    患者さん個々に応じた最良の医療を提供できるよう努力します。
  • 伊藤 勅子 イトウ トキコ
    役職
    乳腺内分泌外科部長
    がん診療・緩和ケアセンター長
    卒業年
    平成12年
    専門領域
    内分泌外科(乳腺、甲状腺、副甲状腺疾患)
    専門医等
    日本外科学会指導医・専門医
    日本乳癌学会乳腺指導医・専門医
    日本内分泌外科学会内分泌外科指導医・専門医
    日本臨床腫瘍学会・がん薬物療法指導医・専門医
    がん治療認定医機構がん治療認定医
    所属学会
    日本外科学会
    日本乳癌学会
    日本内分泌外科学会(評議員)
    日本臨床腫瘍学会
    日本癌治療学会
    日本臨床外科学会(評議員)
    日本遺伝カウンセリング学会
    日本遺伝性腫瘍学会
    日本甲状腺学会
    日本ヒト細胞学会(評議員)